interview

春風亭朝枝

vol.1【前編】その1

仕事中にラジオから流れてきた"落語"に 心をわしづかみにされ、噺家に転身。

春風亭朝枝さんは昨年、2020年2月に二ツ目に昇進されました。お披露目が終わったタイミングでコロナ禍に見舞われてしまいますが、その運命をモノともせず、ひたすらに切磋琢磨。いまでは二ツ目二年目にして、すでに即日完売のチケットが続出するという、大人気の噺家さんへと成長されつつあります。
インタビューの前編では、そんな朝枝さんの入門エピソードから前座時代のお話を伺いました!

春風亭朝枝インタビュー写真

図書館に通い詰めて、落語を丹念に研究。
休みの日に上京して、“寄席”デビューを果たす。

与いちさんとの対談が終わり、そのまま朝枝さんがインタビュースペースへ。
笑いの絶えなかった対談の余韻があるのか、ニコニコした表情の朝枝さんです。

――与いちさんにもお伺いしましたが、まずは噺家になろうと思ったきっかけを教えていただけますか?

朝枝:はい。最初は仕事の休憩中にラジオで落語を聴いたことでした。どなたの高座だったのかはまったく覚えていないのですが、「これが落語か」と思ったのを覚えています。そのとき初めて出合ったんですよね。

――25歳の頃でしたっけ?

朝枝:そうですね。今から10年くらい前なので、そのくらいの年齢だったかと思います。もうね、夢中になったんです、そのストーリーを話している人に。何の噺だったかも覚えていませんし、噺自体もよく分かってなかったのですが、「面白い!」と思いました。それが“落語”だというのを知ったのもそのときです。『笑点』は観ていましたから、落語=大喜利のようなイメージだったのですが、どうやら違うぞ、と(笑)。ストーリーをお話する芸能だというのを知って、それから地元の図書館でCDを借りたり、本を読んだりしました。

春風亭朝枝インタビュー写真

――どなたのCDをお借りになりましたか?

朝枝:そのときはもう、片っ端から。地元の図書館はラインナップが豊富に揃っていたうえに、出囃子のCDなんかもありましたね。そこで本を読んで、“寄席”というものが東京に4カ所あるのだと知ったんです。

――それで、寄席に行かれたんですか?

朝枝:はい。寄席に行きたくなっちゃって、仕事の休みの日に上京して、上野の鈴本演芸場に行きました。ちなみに、どなたが出ていたかも、まったく覚えてないです(笑)。

――初めて落語に触れてから、実際に鈴本演芸場に行かれるまで、どのくらいの期間がありましたか?

朝枝:一年は経ってたかもしれませんね……。私は栃木県出身なので、宇都宮から京浜東北線に乗って行くと終点が上野なんです。東北への玄関口といえばやはり上野だというのが何となく頭にあったんでしょうね。それで上野へ行ってみよう!と。そのときはお江戸上野広小路亭にも寄りました。でも、あとから気付いたんですが、栃木からだと池袋(※池袋演芸場がある)のほうが断然近かったんですよね……(笑)。

春風亭朝枝インタビュー写真

春風亭一朝師匠との出会いが運命を変える。
池袋演芸場で出待ちの末に、入門!

初めて訪れた“寄席”。そこでは強烈な出合いが、朝枝さんを待っていたようです。

――実際にご覧になられて、どう思いましたか?

朝枝:ひとりの人間が喋るだけなのに、こんなにも聴いている人たちが感情を揺さぶられるという経験が今までなかったものですから、とにかく驚きました。トリで『子別れ』を聴いたと思います。腹がよじれて涙が出るくらい笑い、最後にはボロボロ泣いちゃうという経験をして、改めて「ああ、本当にすごい芸能なんだな」と。

――春風亭一朝師匠のところに入門しようと思われた理由をお話いただけますか?

朝枝:寄席でうちの師匠を観て、聴いたというのがきっかけです。CDで聴いていたかは定かではないのですが、目の前の師匠に惚れ込んだというか。

――どこに惚れ込まれたのでしょうか?

朝枝:やはり、江戸っ子の感じといいますか……。啖呵はとても聴いていて、心地よかったのもあります。あとは高座姿がとてもキレイで品があって、すごく優しそうなところとか。

春風亭朝枝インタビュー写真

――与いちさんにも伺ったのですが、“落語が好き”というのと、その職業を選ぶというのは、やはりイコールではないと思うんです。一朝師匠に出会ったから噺家になろうと思ったのか、噺家になろうと決めたときに一朝師匠と出会ったのか……。どちらでしたか?

朝枝:どちらもありますね。私の性格がそうなんですが、好きになると色々調べたくなるんです。それで調べるうちにいろんな噺を聴いて覚えていき、「ああ、この出囃子は『さつまさ』(※)なんだな」とか「一番太鼓はこれなんだ」とか、「あそこには三味線のお師匠さんがいらっしゃるんだ」とか、そういうのを知っていくと、自分でやりたくなってくるタイプで……。『蛙茶番』の素人芝居とか『七段目』の若旦那と一緒ですね(笑)。もう好きで仕方がないから、やりたい!と思っていた状態で行った寄席で、うちの師匠に会ったんです。
※『さつまさ』は春風亭一之輔師匠の出囃子

――職業としてやろう!というチョイスしかなかったんですね(笑)。でもご器用なんだと思います。音楽をやられていたときもそうだと思いますが、やりたいと思ってできちゃうのはすごい!

朝枝:いえいえ、とんでもない。一生懸命なんです(笑)。

――入門をお願いしに行ったときの話は各方面でされていると思いますが、【寅の子会】のホームページ用にもぜひ!(笑) 確か、千穐楽の日に声をかけられたとか。

朝枝:はい。うちの師匠が池袋演芸場での主任のときでした。その芝居で声をかけようと決めていたのですが、なかなか難しいものですね。ぜひ、機会があったらやってみてください、本当に難しいので(笑)。

――入門をお願いに行くことは絶対にないと思いますが……(笑)。でも、ファンの出待ちで考えると「一緒に写真を撮ってください」と声をかけるようなものでしょうから、入門となると、もっとハードルは高いですよね。

朝枝:師匠が寄席に入る前のほうがいいのか、終わったあとのほうがいいのか、とか、そういうところから少しずつ考えていって……。勇気がないと声をかけられないですよ、本当に。

――その芝居で声をかけると決めていて、でも千穐楽になったというのは、10日間悩まれたということですか?

朝枝:悩みました……というか、声をかけるのは決めていたのですが、なかなかタイミングが合わなくて。出番ギリギリに寄席に入ってくるのかと思いきや、うちの師匠は30分前には必ず楽屋入りしていたので、その少し前からエレベーターのところで待ってみたり、ケンタッキーの角から覗いてみたり(笑)。トリを取っていたので、追い出し太鼓が鳴ってから行ってみたら、もう師匠は帰ったあとだったとか。試行錯誤を重ねました(笑)。

  • photo by SHITOMICHI
  • interview and text by MIHO MAEDA

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