interview
春風亭朝枝
vol.5 第二回【前編】
二ツ目昇進から1年半で、すでにサナギから美しい蝶へと脱皮中。進化をし続ける姿を一瞬たりとも逃したくない!
初めての【寅の子会】から約4カ月。緊急事態宣言も解除になったタイミング&次回の寅の子会に向けてのインタビューを行うことに。雰囲気だけでも“打ち上げ”っぽくしようということになり、新橋にある老舗バー【バーミモザ】を借り切っての撮影です。
朝枝さんは二ツ目昇進から約1年半。二ツ目になってからの時間をほぼコロナ禍の中で過ごしてきましたが、そんな状況をモノともせず、いまでは超売れっ子の噺家として活躍中です。前回の【寅の子会】の感想や可愛い甥っ子弟子の与いちさんのこと、朝枝さんの今の心境など大いに語っていただきました。
同じ一門だからこそ、責任を持って後輩の与いちさんを見守ってきた、朝枝さん。
与いちさんとじゃれ合うようなツーショット撮影でバーミモザが笑いに満ち溢れたあと、朝枝さんの単独写真を撮影。オトナの魅力であらゆるポーズに応えていただき、すべての撮影が終わったあとにインタビュースペースに。
――素敵な撮影でした! さて、前回の【寅の子会】はいかがでしたか?
朝枝:お陰さまでとても楽しくやらせていただきました。初めて与いちと一緒に会ができたというのも本当に嬉しかったです。
――与いちさんは前座時代どんな存在だったんですか? 気になる後輩?
朝枝:気になるというか、やはり同じ一門なのでひたすら“責任”があるな、と思っていた感じです。ちゃんと楽屋働きができるように、責任を持って与いちのことをみないと!とずっと思っていましたから。
――お兄さん的な感覚なんですかね?
朝枝:おそらくほかの一門でもそうだと思います。自分の一門の後輩はやっぱり恥ずかしいことがないようにしないといけないので。
――【寅の子会】での与いちさんの高座はどうでしたか? ダイナミックですよね、与いちさんは。
朝枝:もうただただひたすら楽しくて(笑)。あの『船徳』は確かにダイナミックでしたね。船を漕ぐ仕草、ね(と、与いちさんの真似をする朝枝さん)。
――朝枝さんもいつかは『船徳』を習うことになるでしょう、きっと。
朝枝:そうですよね……。いや、でもなかなか難しいんです。あの船を漕ぐ仕草。とある噺で船を漕ぐ仕草を教わったんですけど、私の船の漕ぎ方が遅すぎて「さすがにそれは遅すぎるよ」って言われてしまいました。「もっと筋力を使って、ほら、腕を使って、もっと一生懸命漕げ!」と言われましたが、やっぱり、ほらもう若さが……(笑)。
――でも、一朝師匠も一之輔師匠もおやりになりますよね?
朝枝:うちの師匠は若いですから。
――朝枝さんは、確実に一朝師匠より若いですよ?(笑) 確か、一朝師匠は朝枝さんの年齢×2ですよね?
朝枝:あ。本当だ。うちの師匠は若々しいんです(笑)。じゃあ、いつか習うかもしれない『船徳』に備えて日々トレーニングを行うことにします! めちゃめちゃムキムキになっちゃったらどうしましょうね(笑)。
――でも、『船徳』の船を漕ぐ仕草はあくまでもエアですからね……。
朝枝:エアです。でも、なかなか難しいもんなんですよ。
――分かります。一之輔師匠も「船徳をやると翌日、翌々日に脚が筋肉痛になる」と仰っていました。先日の三遊亭好二郎さんとの二人会(※)で、好二郎さんも汗だくで『船徳』やられてましたものね。
※10月2日に横浜のげシャーレにて開催された汐風落語会の「羽ばたく!二つ目二人会 春風亭朝枝・三遊亭好二郎」
朝枝:ね。お風呂に入ってきたのかっていうくらい汗だくでしたね。いや、驚きました(笑)。しかし好二郎さんは兼好師匠にそっくり。「ああっ」みたいな声の出し方からマクラの作り方までそっくりなんですよ。“好き”が溢れている感じですよね。
――朝枝さんも一朝師匠に似ていると思いますよ。
朝枝:寄せてってるというか、似せていっているのか……。いやいや、ただただ、私が年を取っているんです、きっと(笑)。
私は無個性だから、繰り返し繰り返し高座で噺をやるだけ。そこで気付くことがあるんです。――朝枝
朝枝さんは言葉の選び方や仕草が本当に面白く、インタビューをしていてもアレコレと話が尽きません。ひとしきり大笑いしたあとで、話題は前回の【寅の子会】で朝枝さんがやってくださった噺について。
――朝枝さんが前回かけてくださった噺は『普段の袴』と『厩火事』です。こんなのを伺うのは野暮天だと重々承知のうえですが、この2席を選ばれた理由はありますか?
朝枝:【寅の子会】の最初の高座だったので、自分が最もやり慣れているというか、おそらく楽しんでいただけるだろうと思うものをふたつ選んで行いました。この噺はすごく好きなんです。
――さっき与いちさんにも同じ質問をしたのですが、与いちさんはワイガヤ系の噺より、「魅力的な人物がひとり、周囲を巻き込みつつ大事件を起こしていく噺が好き」と仰ってました。それで、『船徳』と『がまの油』だそうです。
朝枝:なるほど。私は『普段の袴』に出てくる、ちょっとボヤっとしている男が好きですねえ。『厩火事』ではお崎さんが好きなんです。あの人は何なんでしょうね(笑)。あのキャラクターがたまらなく好きでして。与いちと同じだと思うのですが、私もいろんな師匠方の『厩火事』や『普段の袴』を見て感動して、それでもう「やりたい!」って思ったんですよね(笑)。
――この師匠にこれを習いたい!というのは自分の中できっときっかけがあるんですよね。
朝枝:やっぱり「心が動いた」という感じです。涙が出るほど楽しい『普段の袴』はこの師匠から、前半はものすごく笑わせるのに後半はちょっといいハナシだなと思える『厩火事』はこちらの師匠から……という具合に。ああいいなぁ、って。
――そこからご自身のカラーみたいなものを目指していくんですか?
朝枝:前座の頃に教わったのは、「まずはなるべく寸分狂いなく、その師匠がやっていることを覚えてできるように」というものです。最初はそこを目指して、そこからどんどん崩して、というか自分のやり方を探っていくというか……。『普段の袴』と『厩火事』は自分で少しずつ工夫していってますね。
――朝枝さんの噺はちょっと見ない間にすごく進化しているというか。あれはとてもビックリします。例えて言うなら、サナギから蝶に変化するくらいのイメージです。朝枝さんの『のめる』なんて、ある日突然蝶々になってて驚きました(笑)。
朝枝:それは何だか、嬉しいです。
――自分の味に変えていこう!というのは、何となく思っていらっしゃるんですか?
朝枝:自分の味というか……。私、“自分”がないんです。無個性なんですよね。
――今、なんと?(笑) 朝枝さんが無個性なんて、絶対にそんなことはないですよ!
朝枝:いえいえ。なので、たとえば『のめる』をやっていて「この人(登場人物)ってきっとこんな人なんだな、こういうふうに気持ちが動いたんだろうな」って思ったときに、それなら多分ここはすごく元気いっぱいにセリフを言うだろうなぁと気付くというのはあります。それで徐々に変わっていくんです。教わったときにはそうではなかったけれど、自分で繰り返しやっていくうちに「ああ、そうかなぁ」って。そうやって変わっていく感じですね。
――之輔師匠を見ていてもそう思うことがあります。同じ噺なのに以前みたときとまったく違うことがあって、何度でも楽しませてもらえる感じがしますね。
朝枝:一之輔師匠も本当に毎回変わったりしますからね。一之輔師匠の高座を袖で見ていて、「こういうポイントで解釈を変えているんだな」とか「ここから噺を膨らませているんだな」とか、そういうのを勉強させてもらってます。
――人物になりきっているうちに、ついセリフが出ちゃう、という感じなのですか?
朝枝:一之輔師匠には「なりきっちゃいけない。常に第三の視点を持って、登場人物に“行け〜!”みたいな感じでやらせろ」と言われました。人物になりきるんじゃなくて、それよりもう少し上から見る、みたいな感じです。
――操り人形を操っている人みたいなイメージですかね
朝枝:はい。一之輔師匠がやられる『千早ふる』のご隠居なんて、その視点で一之輔師匠が動かしているから、もう暴れまくっているという印象ですよね(笑)。
- hair & makeup SHOHEI INOUE
- photo by SHITOMICHI
- interview and text by MIHO MAEDA
- location at BAR MIMOSA