interview

春風亭朝枝

vol.9 第四回【前編】

36歳の成熟感と色香を匂い立たせつつも、“年寄り領域”への到達をひたすらに願う朝枝さんは唯一無二の、稀有な存在

この4月で36歳のお誕生日を迎える朝枝さん。最初にお会いしたときは“超”がつく人見知りを発揮されて、どの角度からインタビューをしていこうかと思案したものでしたが、会を重ね、撮影&インタビューを重ねるうちに高座での姿とはまた違った魅力を見せてくださるようになりました。しっとりとしたオトナの雰囲気を漂わせつつ、堅苦しさのない場所では見事なツッコミキャラの一面も見せる朝枝さん。まだまだ多くの引き出しを持っているのでは、と思いつつ、インタビュースタートです。

春風亭朝枝インタビュー写真

与いちさんのハプニングを見守りながら、トリの朝枝さんが会場を大いに沸かせる

今回は諸事情により撮影に取れる時間が短かったため、朝枝さんの単独インタビューのみ場所を某所に移してからスタート。雰囲気のいいお店で一息つきながら、ほっこりした笑顔を見せてくれる朝枝さんに、色々とお話を伺います。

――本日もありがとうございました! 場所の移動をお願いしてしまい、すみません。さて、前回の【寅の子会】はどうでしたか?

朝枝:この前の寅の子会、この前の寅の子会、この前の、寅の、子会……?

――いきなり復唱し始めましたね(笑)。どうされましたか? 忘れちゃった?

朝枝:あれ? 結構前でしたよね?

――そんなことないですよ! 1カ月前くらい? 今回はスパンが短いんですよ。
※撮影日から計算すると、ほぼ1カ月前という計算に。

朝枝:あ、そうでしたね(笑)。楽しかったですね、楽しかった! あれ、あの日は確か雨が降っていましたよね?

――降ってました! 与いちさんは一之輔師匠をしくじるし、朝枝さんは朝イチからの仕事を終えてくるはずが、なかなかいらっしゃらなくて焦りました!

朝枝:そう、そうです! あの日は朝から一生懸命頑張った日でしたねぇ。バレンタインディでしたよね、確か。

――(笑)。いま、頭の中で一生懸命思い出してますね……。何を思い出しましたか?

朝枝:えーっと。あの日は与いちがしくじった日でしたね。与いちが一之輔師匠から言われた課題をちょっとズルして片付けようとしたら、それがバレてしまい、師匠がTwitterでRTしたもんだからいいねが200以上ついちゃって、どんどん広まってしまったという、衝撃的な事件があった日が、前回の寅の子会(笑)。

――与いちさん、相当気にしていましたね(笑)。

朝枝:私も気になりましたね(笑)。あの日は私がトリだったでしょ。開口一番も私でしたから、高座に上がったらすぐに今の状況をお客様にお伝えしよう!と思って(笑)、噺に入る前にいいねの数を「200超えましたよ!」と報告しました。

春風亭朝枝インタビュー写真

――与いちさんはあの日は渋谷らくごの高座に上がってから寅の子会へいらしたのですが、もう、到着した瞬間から様子がおかしくて……(笑)。そういう甥っ子弟子を見て、朝枝さんはどんなふうに思っていたんですか?

朝枝:叔父弟子としては、「すごく面白いな♡」って。完全に【与いち劇場】になってましたからね。澤田写真館さんで与いちと会った瞬間に与いちが、「あにさーん……。僕、ヤバいんですよ……」って寄ってきたんです。「もう、完全にしくじっちゃって……」って(笑)。どうしたどうした??ってなりますよね。そしたら、すでに完全な【与いち劇場】が始まっているという。
※朝枝さんは与いちさんのモノマネをしながら話してます。

――朝枝さん、与いちさんのモノマネ似てます! 朝枝さんが時々ふっとやる、いろんな師匠方とか同じ二ツ目さんとかのモノマネ、本当に似てるんですよね……(笑)。確かに与いちさん、いろんな意味で吹っ切れてましたね、あの日。

朝枝:でも、何とかなりましたからね、無事に(笑)。

――そんな与いちさんを尻目に(笑)、朝枝さんは『真田小僧』と『茶の湯』をやってくださいました。朝枝さんがかけてくださる『真田小僧』と『茶の湯』、本当に大好きです! 『真田小僧』は後半部分がお好きなんですよね、確か。

朝枝:ありがとうございます! そうなんです。最後の感じがいいですよね。寄席サイズだと前半部分で終わるわけですが、あの最後の講釈の場面から薩摩に落ちる、っていうところが、本当に好きなんです。

――フルサイズでやってくださる方は少ないですよね。

朝枝:そうですね。二ツ目になって持ち時間に余裕ができてからは真田小僧を最後までやらせてもらえるようになりましたからね。前座だと15分しかないので、最後まではできなくて。

――毎回とても楽しませてもらっています。トリネタは『茶の湯』でしたね。

朝枝:はい! 『茶の湯』は好きですねぇ。何ですかね、定吉もご隠居さんも、どっちもたまらなく好きなんです。特にあの、ほら、定吉に飲ませる場面あるじゃないですか。あそこが大好きで。「早く飲みなさい」って言う(笑)。「何で飲まないの?」って感じで聴くじゃないですか。あれが好きなんです。

――私は無邪気に乾物屋へ買い物に行く定吉がたまらなく愛おしいです(笑)。ご覧になったお客様皆さんが「楽しかった!」とおっしゃっていたので、私も嬉しかったです。

朝枝:本当に。私も嬉しいです!

春風亭朝枝インタビュー写真

寅の子会のお客様もきっと10年後には初心者でなく、落語ツウですね(笑)。――朝枝

――寅の子会】は一回目からいらっしゃっている方も多くて、もう【初心者】とは言えなくなってるかもしれません(笑)。でも「落語が好き」というより「与いちさん&朝枝さんが好き!」という感覚でいらっしゃっているお客様が多いような気がします。

朝枝:そうですか! それは嬉しいですね。

――朝枝さんは独演会も多いですが、そういったところに来られるお客様とはきっと全然違いますもんね。

朝枝:全然違うと思います。私の独演会にいらっしゃるお客様は、その日にいろんな落語会がある中で私の会を選んでくださっている、という感じだと思うんです。でも寅の子会は、スタッフの方々の働きかけも多いと思いますし、普段は落語にあまり触れてないという方が多いんですもんね。

――ほかの会に比べたら、のんびりしている会のような気がします……。開場前に並ぶお客様も少ないですし……(笑)。珍しいですよね。

朝枝:あはは(笑)。たとえば【朝枝の会】にいらっしゃるお客様は落語ツウの方も多いので、普段あまりかからないようなネタを披露しようかなというのがあるんですが、寅の子会は茶の湯とか普段の袴といった、落語好きの方からしたら聴きなれているネタでも大笑いしてくださるというお客様ばかりで(笑)。「このクスグリで笑ってくださるんだ!」とか「こういう新鮮な反応があるんだ」という発見があります。
※次回は5月15日(日)開催予定 【朝枝の会】
人形町 日本橋社会教育会館ホールにて 18時30分~
https://www.mixyose.jp/mix/

――確かに(笑)。私も朝枝さんの会にはよく通っているので、朝枝さん独自のクスグリを覚えてしまうというか、そういうところはあります。

朝枝:寅の子会のお客様は、まっさらな、誰も笑ってないようなところで笑ってくださるんですよ。だから、思わず「ここで?」「この間合いで?」って聞きたくなります(笑)。でも、むしろ「ここ笑えるんだ!」というのがすごく勉強になって。じゃあ、もう少しこんなふうに工夫しようかなとか、そういうヒントになりますね。

春風亭朝枝インタビュー写真

――与いちさんも朝枝さんもたくさん会をやっていらっしゃいますけど、それらの会の中でも【寅の子会】がおふたりの心に残る会になるといいなぁと思いながら開催しているんですよ。

朝枝:でも、寅の子会もだんだん落語ツウの集まりになっていくんじゃないですか?

――これが10年続いたら、きっとそうなりますね(笑)。

朝枝:この演目は○○師匠から教わったんだよ、このクスグリはあの師匠からだね、なんておっしゃる方が増えたりして。そうなっていただいたら、それはそれでとても嬉しいです。10年後、楽しみですね。

――次の寅年にはもう真打かもしれないですしね。

朝枝:あー、12年後ですもんね……。あり得るかな……。そう考えると、もうあっという間ですね、きっと。

――そのときには寅の子会でお祝いしないと、ですね。そういうふうにできるといいなぁと思います。さっき、与いちさんが「落語は年齢が上の人が多くいらしてて、それはとてもありがたいけど、僕たちが同世代の人をもっと呼べるようにならないと」と言っていましたが、朝枝さんはどう思いますか?

朝枝:与いちがそんなことを!(笑) でも、そうですね。自分たちの役割としては、そういうところを考えないといけないかもしれませんね。

  • photo by SHITOMICHI
  • interview and text by MIHO MAEDA

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